プルメザスFAのスペイン人コーチ、チャビ・ベジードのコメント
まず最初に、前回のインタービューでも言った通り、これから話すことはあくまでも私の個人的な意見です。私の意見は私のサッカー解釈をベースとしていて、他のどのコーチの意見も同じように価値があります。また、私には好きなサッカースタイルがあり、それは私の考え方に大きく影響しています。
日本のサッカーには技術の高い選手がたくさんいて、真面目に頑張っている子どもや大人もたくさんいる国だと知っています。そのため、ここはスペイン人の自分がサッカーについての考えを伝え、日本人選手の高い技術と補い合うのに理想的な場所だと思っています。
サッカーの素晴らしいところは、人それぞれが違う考え方をするところで、皆が同じように考えるのであれば面白くないでしょう。
そのことを踏まえて、一つの意見として読んで頂ければと思います。
ヨーロッパの選手と日本人選手
もちろん、選手は皆それぞれ違うので、この質問に対する正しい解答はありません。それでも、ここでは攻撃をする時の選手の考え方の違いについて話していきます。
一般的に、日本人選手は技術が高くドリブルのレパートリーが豊富で、それに自信を持っています。それ故にサッカーをする時はより個人主義になるというのが私の印象です。何か障害があれば、1対1や個人プレーで解決しようとします。性格はとてもプロフェッショナルで真面目です。
一方、ヨーロッパの選手は普通、相手ディフェンスを困らせるために、仲間と協力することを選びます。いつも相手チームからボールを遠ざけ、ボールをサイドからサイドへと動かし、ワンタッチやツータッチで素早くパスを出し、相手ディフェンスにスペースが生まれるまで待ちます。そして現れたチャンスを良いパスとパスコースで活かします。
もしもサッカーが1対1のスポーツなら、常に日本かブラジルが勝つでしょう。なぜなら、これら2つの国は、各選手の技術の高さを利用したサッカーをする国だからです。この2つの国の違いは、ブラジルは技術の高さだけでなく、チームプレーと良いディフェンス無しでは成功することはできないということをよく理解していることです。日本、特に小学生の子どものサッカーでは、個人の技術を上げることに重きを置き過ぎて、チームでのプレーに慣れることやチームでの守り方についてはあまり時間を使いません。
日本に来るヨーロッパの選手、ヨーロッパに来る日本の選手
サッカーの考え方に大きな違いがあるため、良い判断力を持ち、トラップやパスの技術も高いスペインのプロ選手でも、日本のサッカーには適応できないことがあります。最近の一番の良い例が、日本に来て数か月後に、彼が思っていたような活躍ができないことに気が付いたためサッカーを引退した、フェルナンド・トーレスです。
他の例が、ヴィッセル神戸のセルジ・サンペールです。とても小さい頃からバルサで学び、技術面でも戦術面でも高いものを持った選手ですが、日本に来て最初の数か月は上手くいきませんでした。今は日本のサッカーにだんだん慣れてきていて、どんどんよくプレーできるようになっています。
それと同じことが、日本で際立った選手がヨーロッパへ行き、今までやってきたものとは全く違ったサッカーと出会い、簡単には適応できない、というように起こります。
そして、ヨーロッパに来る日本人トップ選手のほとんどは、攻撃の選手ではないでしょうか。日本を歩いていて、私よりも背が高くがたいの良い日本人をたくさん見かけるので、体格の問題は言い訳にできません。私は、日本人は技術練習に全力を注ぐので、攻撃力のある選手が多く出てくるのだと確信しています。
日本人選手がヨーロッパにやってきた時、その技術の高さに驚かされます。例えば、久保建英、乾貴士、香川真司、本田圭佑、長友佑都などがそうです。このタイプの選手は、ヨーロッパのチームによくはまり、その上人々はそのような選手を見るのが好きです。なぜならヨーロッパでは日に日に、2人や3人を相手に一人で次々とドリブルで抜いていくような選手が少なくなっていて、そのような力を求めているチームは、よくブラジルや、中には日本のマーケットから選手を探します。
他の違い、相手へのリスペクト
日本人選手がヨーロッパの選手より個人主義的な考え方をすること以外にも、違いがあります。
ヨーロッパの人間から見て、多くの日本人は自分が守る時には相手を尊重しますが、攻める時にはそうはしていないように感じます。
ヨーロッパでは、ディフェンスの選手は危険な場面で相手フォワードにドリブルで抜かれれば、普通はファールで止めようと考えます。親切な選手はシャツを掴み、そうでもない選手は蹴りを入れて倒します。ディフェンスの目的は結局のところ、相手の攻撃選手にゴールチャンスを作るという目的を果たさせないようにすることです。日本では、まるでそれがルールであるかのようにファールを犯すことを避けようとしがちですが、実際はファールもサッカーの戦術の一部です。
ヨーロッパで1対1は、フォワードが相手をドリブルできる可能性が高いとわかっている時にのみすべきプレーです。もし3回挑戦してみて2回はボールを奪われてしまうのなら、次はその攻撃のプレーが続くように、味方選手を探した方がいいかもしれません。
そのためヨーロッパでは、常に1対1をしかけることは、自分のレベルを過小評価されているとディフェンスに思わせることになるため、相手を軽視していてリスペクトが足りないとみなされることになり得ます。もちろん、1対1を選択することがどのような状況でも常に失礼に当たると言いたいわけではありません。
これまでにあった個人的な経験
日本の大人たちと一緒にサッカーをする機会が何度もありました。真剣勝負ではなく楽しむことが目的のもので、色々な場所で違った人々と行いましたが、いつも同じことが起きます。
私がボールを貰った時に最初に考えることは、前にドリブルをするスペースがあればボールを持って前へ進む、または自分よりも良い位置に仲間がいればその人にパスを出すことです。もしそれらに当てはまらなければ、2つの選択肢が残ります。相手選手をドリブルでかわして進むか、ボールを一旦後ろに下げて最初からプレーをやり直すかです。
私は、多くの日本人が「とりあえず自分ひとりで頑張ってみて、もしだめなら仲間にパスしよう」と考えているように感じます。違う考え方の日本人もいるはずですが、少なくとも私が今まで日本で出会った人たちは、このように考えているように感じました。
日本のチームメイトには、「パスをしないで、自分で持っていいよ!」と言われたことが何度かあります。私は、何のために?と思いました。もし私の前に2人や3人の相手選手がいて、ドリブルで突破しようとすれば、ボールを失って終わる可能性が高いです。もし中盤や守備のポジションでボールを失えば、それは自分のチームのピンチに変わってしまいます。特に私は中盤やディフェンスでプレーすることが多いので、ボールを貰えば、大概仲間にパスをすることになります。
このような経験から、この国にはサッカーの考え方が完全に違う人がいるのだとはっきりと感じました。
印象に残る日本代表の試合
今まで見た日本代表の試合で一番驚かされたのは、2013年のFIFAコンフェデレーションズカップの対イタリア戦です。前半終了時点で、2-1で日本がリードしていましたが、後半持ちこたえられず最終的に3-4でイタリアに敗れました。
日本に足りなかったことは何でしょう。ゴールチャンスを作るために必要な技術やドリブルの力を持っているのなら、それは攻めないで良い時にボールで何をするべきかを知ることではないでしょうか。なぜなら、サッカーは攻めて得点を奪うことが全てではなく、得点を守ることができることも大切だからです。
私は、ディフェンスを5人置いて守りを固めることも一つの選択肢ではありますが、個人的にそのような戦い方は好きではないので、それを言っているわけではありません。その上、それをすればカウンター以外で自分たちが得点するのは難しくなってしまいます。私が言いたいのは、グラウンドを広く使って皆でボールを動かして、相手チームにボールを取られないようにすることです。そうすれば、攻めながら守っていることにもなります。なぜなら相手チームはボールを持っていないのなら攻めることはできず、また、こちらのチャンスも作ることができるからです。
サッカー文化が根付いているヨーロッパ
日本の子どもの多くはテレビでサッカーをたまにしか見ないため、普通、ヨーロッパの子どもがしているようにはサッカーを理解していません。日本代表の試合は見る子どもも多いですが、Jリーグや、はたまた欧州リーグを毎試合見るような子どもは非常に少ないです。
ヨーロッパでは、サッカーをやっている子どもの90%以上は、毎週家族でサッカーの試合を見ます。そして、家族や友だちと試合で起こったプレーついて話します。そうやって、子どもたちは自然とサッカーの理解を深めていきます。
またこれは、子どもだけの問題ではなく、日本で子どもにサッカーを教えている大人の多くも、毎週サッカーの試合を見ることはしていないようです。もちろん見ている人もいますが、私が日本で今まで知り合ったコーチの中で、それをしている人は少ないです。
結論:日本のサッカーをよくするためにどうすれば良いと思うか
簡単ではなく長い道になるでしょうが、日本のコーチたちは、サッカーは個人競技ではなくてチームスポーツで、だから自分たちの目的を果たすために仲間と協力しなければならないのだと、小学生の小さい頃から教えると良いと思います。
個人の技術を限界まで高めるのは良いですが、チームプレーにも同じだけの重要性を持たせなければなりません。ここで言うチームプレーとは、トラップとパスの練習のことではなくて、皆で一緒に戦う考え方を子どもたちに教えることです。試合の中で現れる問題の解決法を、個人の技術力だけではなく仲間を使って探すことです。
もしも子どもたちが幼い頃からヨーロッパのサッカーを見ることが普通になれば、大きくなった時にはその考え方が浸透していて、例えばボールを持っている時、ボールを速く仲間の間で回すことの意味をわかっているはずです。
しかしもちろん、そのように教えるためには、コーチがこのサッカーの戦い方を信じなければなりません。多くのコーチが、良いサッカー選手になるためには技術を磨くことが何よりの最優先事項だと考え、それ以外のことをおざなりにしているうちは、日本のサッカーは変わらないでしょう。
(2020.5.9 チャビ・ベジード)